
日の丸を背負って臨んだGPファイナルでの大敗。視聴者の目に映る、主人公・勝生勇利の物語は、決して華々しいスタートではなかった。
23歳という年齢、コーチとの関係を解消した中途半端な現状、凱旋とは呼べない帰郷。
選手生命が絶たれたわけではない。しかし、巻き返せるとも思えない状況だった。
そんな勇利を迎える故郷「はせつ」の町もまた、人口減少に歯止めが効かない、ありふれた日本の地方都市だ。
勇利がはせつ町に戻ってきた4月は、別れと出会いが交差する季節。
しかし、寂れた町の風景と季節外れの雪からは、別れの切なさにも似た痛みだけが強く感じられた。
勇利もはせつ町も、普通ならここから緩やかに終わりへ向かったのかもしれない。
しかし、季節の外れの雪は、意外な出会いを連れてくる。
「リビング レジェンド(生ける伝説)」との仰々しい呼び名が様になる、世界選手権5連覇のトップスケーター「ヴィクトル・ニキフォロフ」。
勇利がずっと目標にしていた選手・ヴィクトルが、突如勇利のコーチへ名乗り出るところから「ユーリ!!! on Ice」の世界は大きく動き出した。
そもそも、ヴィクトルが勇利に興味を持つまでの経緯が切ない。
ずっと憧れていた地元の女の子を驚かせようと、シーズン終了後、密かにヴィクトルの演技を練習していた勇利。
日本中がヴィクトルの演技に熱狂していた瞬間、勇利は九州の片隅にあるスケートリンクで、たった1人のために広いリンクを滑走する。
曲名は「離れずにそばにいて」。
このシーンで、視聴者は初めて勇利の演技を目にするのだが、人が変わったかのよう悩ましげな表情に心を乱されることとなる。
先ほどまで、不甲斐ない結果を受け止めきれず他人事のように語り、人目を避けて涙を零していた青年とは思えないほどの、艶っぽい演技。
ヴィクトルのプログラムを真似たものとはいえ、曲の本質を捉えた勇利の表現力を前に、視聴者は「このフィギュアスケートアニメは、只者ではない」と悟る。
そんな勇利の演技を特等席で見つめる女性・西郡優子は既に結婚しており、3人の子持ちだ。
届くはずのない思いだが、それでも勇気を出して伝えようとする勇利が何か言いかけた瞬間、彼女の子どもである3姉妹に遮られてしまう。
口にすることさえ叶わない、それも子どもたちに遮られてしまうところが切ない。
スケートに全てを捧げ地元へも帰れなかった勇利と、地元で生きる元リンクメイトとの、重ならなかった時間の長さを感じる瞬間だった。
宙に消えた「憧れの人」への告白は、二度と紡がれることはない。
しかし、もう1人の「憧れの人」ヴィクトル・ニキフォロフへと届くきっかけを作ったのは、他でもない3姉妹だった。
3姉妹は、勇利の演技をリンクサイドからこっそり撮影していただけでなく、許可なく動画サイトへアップロード。
勝生勇利がヴィクトル・ニキフォロフのプログラムを再現したプライベート感溢れる動画は、瞬く間に拡散され、やがてヴィクトル本人の目に止まる。
動画のせいで鳴り止まない着信音が嫌になり、スマホの電源を落としていた勇利。
ネットニュースを見る暇も気力もなく、雪かきの手伝いが終わった直後、実家の温泉宿から飛び出してきた犬を見て、かのヴィクトル・ニキフォロフの来訪を知る。
「まさか」と思いながら駆け出し辿り着いた温泉で、一糸まとわぬ姿のヴィクトルと出会う勇利。
勇利の困惑をよそに、ヴィクトルは「コーチになる」「優勝させるぞ!」宣言で、勇利を驚かせる。
「ユーリ!!! on Ice」1話は、こうして大きな変化を期待させて、終わるのだ。
ずっと背中を追っていた、世界中の誰もが名を知っている選手が、突如目の前に現れる。
「シンデレラストーリー」と呼んでもいいほどの急展開だが、王子様がハマり役すぎるヴィクトルは、勇利にとっての魔法使いだ。
勇利はこれから、どんな魔法をかけられるのか。
どれだけの変身を遂げるのか。
個性豊かなライバル達の登場を含め、先が待ち遠しいアニメだ。
ヴィクトルのスペル「VICTOR」に、勇利の「Y」を足すと、勝利を意味する「VICTORY」になる。
今年の秋は、彼らが勝利するまでの日々を、はせつ町住人になった気持ちで追いかけていきたい。
出典元:https://twitter.com/yurionice_PR/status/783712857082826753